林動物病院

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# 12 内視鏡で胃の組織球性肉腫と診断した犬の症例

嘔吐と食欲不振の原因を探る—12歳9カ月のウェルシュ・コーギーの症例

今回ご紹介するのは、12歳9カ月のウェルシュ・コーギー(未去勢のオス)の症例です。このワンちゃんは、嘔吐と食欲不振の症状があり、飼い主さんが心配して来院されました。

初めの検査—血液検査の結果

血液検査を行いましたが、結果はすべて基準値内で特に異常は見られませんでした。これだけでは原因を特定することができなかったため、さらに詳しい検査を行うことにしました。

超音波検査—胃の異常を発見

お腹の超音波検査を行ったところ、胃の壁が通常の2倍以上(11.9mm)に厚くなっている部分が見つかりました。健康な犬の胃の壁の厚さは通常2–5mm程度です。これが原因の可能性が高いと考え、さらに詳しい検査を進めました。

内視鏡検査と病理検査

胃の異常な部分に内視鏡を使ってアプローチし、その組織を少しだけ採取しました。この採取した組織を病理検査に出したところ、「組織球性肉腫」という悪性腫瘍であることが判明しました。

組織球性肉腫とは?

組織球性肉腫は、主にバーニーズ・マウンテン・ドッグやレトリーバー、ロットワイラーなどで多く見られるがんの一種です。このがんは進行が非常に早く、転移もしやすいため、治療しても生存期間が数カ月にとどまることが少なくありません。

治療の進め方
1. 抗がん剤治療

治療には、効果が証明されている「ロムスチン(CCNU)」という抗がん剤を使用しました(国内では未販売)。副作用が出なければ3週間ごとの投与を計画しましたが、2回目の投与後に胃腸障害が強く出たため、別の抗がん剤「ニムスチン(ACNU)」に切り替えました。

その後、抗がん剤を合計6回投与しました。その結果、食欲が戻り、減少していた体重も元に戻りました。飼い主さんからは「本当にがんなのですか?」と驚かれるほど元気になりました。

2. 補助療法

抗がん剤以外の補助療法として、副作用がほとんどない「ホモトキシコロジー」を取り入れました。今回は、腫瘍に対応する内服薬『Galium-comp-Heel』と『Lymphomyosot drops』を使用しました。

まとめ

今回の症例からわかるように、消化器の病気は血液検査だけでは異常が見つからないことがあります。嘔吐や食欲不振が続く場合、早めに動物病院で詳しい検査を受けることが大切です。特に繰り返す嘔吐の場合、病気が隠れている可能性がありますので、ぜひ早めの受診をおすすめします。

 

獣医師:林 敬明

 

 

この内容は2021年11月時点の情報です。