# 13 : 犬の胆嚢・脾臓 摘出術 / 【胆嚢粘液嚢腫】術前検査でアジソン病が見つかった症例
今回の症例は14歳の去勢済みのキャバリアです。
昨晩からの嘔吐と食欲不振を主訴に来院されました。
血液検査では肝酵素のALTが1296(基準値:10-125)、胆道系のALKP 5265(23-213) GGT 151(0-11) と顕著に上昇し、ビリルビンが1.6(0.0-0.9)と黄疸の検査も軽度上昇がみられます。
また急性炎症のCRPも9.1(0.0-1.0)とかなりの高値です。
そして、今回の血液検査で気になる点として、電解質のK (カリウム)が 8.0(3.5-5.8)と高値で、Na( ナトリウム) は140(144-160)と低値でした。
超音波検査で胆嚢は胆嚢粘液嚢腫(赤丸)を起こしていました。
また脾臓に腫瘤も認めました。
※ 胆嚢粘液嚢腫についての説明は『症例紹介』の【#1の胆嚢摘出術】を読んで頂ければ幸いです。
内科治療を2日間行いましたが、症状の改善はなく、血液検査の数値は悪化したため、外科手術をさせて頂く事になりました。
そして血液検査の高カリウムと低ナトリウムから副腎皮質機能低下症(アジソン病)を疑い、ACTH刺激試験の検査も依頼していましたが、この時はまだの結果は返ってきていませんでした。しかしアジソン病も疑っていたので、通常の麻酔より注意が必要となります。
胆嚢摘出手術
正中切開をしていきます。今回の胆嚢(白矢印)は通常より深い位置にありました。
胆嚢(白丸)ははち切れそうなほどパンパンです。
胆嚢をなんとか掴み支持しながら、胆嚢を肝臓から剥離することが出来ました。
胆嚢摘出と同時に肝臓の生検も行いました。
術前のエコー検査で脾臓に腫瘤(黄丸)も認められたので、脾臓の摘出手術も行います。
摘出した胆嚢と脾臓です。
胆嚢を切開してみると、中からはゼリー状の物質が出てきました。
【病理検査】
肝臓:慢性化膿性胆管周囲炎と肝細胞の水腫性腫大
脾臓:結節性過形成
【胆汁の感受性検査】
陰性で細菌は認められませんでした。
また術前に依頼していたACTH刺激試験では、やはりアジソン病を疑う結果で返ってきました。
今回の症例は術後2日目から食欲が出てきて、血液検査でも数値は徐々に改善されていきました。
今回見つかった、副腎皮質機能低下症(アジソン病)の治療として、ミネラルコルチコイド作用とグルココルチコイド作用を併せ持つフロリネフ【国内未発売】を使用しました。
使用開始から電解質のカリウムとナトリウムの値は正常になりましたが、コルチゾールの数値は少し低いため、現在はフロリネフと低用量のプレドニゾロンの2種類を使用し安定しています。
胆嚢粘液嚢腫は症状が出てからだと、手術をしても死亡率の高い疾患です。
今回の症例は術後から症状の改善が見られとても良い経過でした。
また、今回見つかったアジソン病ですが、定型と非定型の2つのパターンがあります。非定型の場合は一般的な血液検査では異常が見つかりません。血液検査で問題はないのに、食欲不振、嘔吐下痢、元気消失、多飲多尿などの症状が認められる場合は、非定型アジソンも考慮しなくてはいけません。
獣医師:林 敬明
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