# 14 : 犬の腎臓全切除術 / 右腎にできた血管肉腫
今回の症例は11歳のノーフォークテリア(去勢済みのオス)です。
飼い主さんがペットホテルをご利用中、「飲む水の量が増えた」とのことで、血液検査を行いました。
血液検査の結果
検査では、腎臓の健康状態を示す以下の数値が確認されました:
- SDMA(早期腎臓マーカー):32(基準値 0~14) → 高値
- クレアチニン(CREA):1.2(基準値 0.5~1.8) → 正常範囲
- 尿素窒素(BUN):31(基準値 7~27) → やや高め
- リン(PHO S):4.7(基準値 2.5~6.8) → 正常範囲
- 尿比重:1.0317(正常値 1.035以上) → やや低め
これらの結果を飼い主さんに報告し、さらに詳しい検査を実施することになりました。
エコー検査と腫瘍の発見
エコー検査の結果、右の腎臓に腫瘤(赤矢印で示した部分)が見つかりました。腎臓の腫瘍は多くの場合、症状が現れないまま発見されます。
腫瘤から細胞を採取し検査したところ、悪性腫瘍の可能性が高いという結果が出ました。飼い主さんと相談のうえ、腎臓を摘出する手術を行うことになりました。
手術準備
手術を行う前に、左側の腎臓が正常に機能しているかを確認しました。造影剤を使った検査では、左の腎臓は問題なく働いていることが分かりました。
腎臓全切除術
腎臓を後腹膜から遊離させて、腎臓周囲の脂肪に入り込んでいる血管を損傷しないよう、慎重に剥離していきます。(黄色の矢印が指しているのが脂肪に包まれた右腎です)
剥離をすすめていき、後大静脈(黄矢印)から分岐している腎静脈(黒矢印)が確認できました。
生体側で2か所の結紮をします。縫合糸(青矢印)とチタンクリップ(黄矢印)で結紮しました。
この後は切除する腎臓側でも結紮して、腎静脈の離断をします。
次は腎動脈の離断です。腎静脈と同様2か所(黄矢印がチタンクリップ・青矢印が縫合糸)で結紮しました。
その後、尿管をなくべく膀胱付近で結紮離断し、手術は無事に終了です。
歯の処置
手術中、同じ麻酔下で歯周病の治療も行いました。
手術は無事に終了しました。
同麻酔で歯科処置をするのは賛否両論ありますが、歯周病は腎臓に悪影響を与える可能性があるため、重度の歯周病がある歯を抜歯し、スケーリングを行いました。
摘出した腎臓です。
摘出した腎臓の検査結果
摘出した腎臓を詳しく調べたところ、「血管肉腫」という非常に悪性度の高い腫瘍であることが判明しました。しかし、腫瘍は完全に摘出できており、被膜に覆われた状態で取り出せていたとのことです。
今後の経過観察
血管肉腫は転移のリスクが高いため、定期的な経過観察が必要です。現在のところ転移は確認されておらず、予後は良好と考えられますが、今後も経過観察が必要です。
獣医師:林 敬明
この内容は2021年12月時点の情報です。
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