林動物病院

〒411-0802 静岡県三島市東大場2-2-19

# 18 : 犬のスケーリング(歯石除去)処置 / 【愛犬・愛猫の口臭気になりませんか?】

今回はスケーリング処置の話です。

①当院で実際に行っているスケーリング処置について
②そもそもスケーリング処置とは? 必要なの?
③無麻酔の歯石除去があるって話を聞いた事あるけど?
④まとめ

について話します。

 

当院のスケーリング処置について

タイトルでは【愛犬・愛猫の口臭気になりませんか?】と書きましたが、スケーリングの正しい目的は『歯周病の予防、治療をする事』です。

そして1本1本歯をしっかり診断して『歯周病罹患歯が残せるか考える』事です。

当院では必ず麻酔をかけて処置を行います。理由は後述。

麻酔をかけるにあたり、麻酔前の血液検査を行い、その動物にあった麻酔薬の種類や量を調整して麻酔をかけていきます。また静脈点滴を行いながら処置をしていきます。

 

処置前の写真です。口腔内を詳しく確認し、プロービングを行って歯周ポケットの深さや、歯肉縁からの出血を確かめます。

超音波スケーラーで歯石や歯垢を落としていきます。歯周ポケットの中もしっかりと処置していきます。

写真の下顎の歯はスケーリング処置が済んでいる状態です。上顎の歯に比べてこの段階でも見た目はかなり綺麗になっています。

超音波スケーラーを使用する場合は、歯に当てる角度や適切な操作時間が重要です。力が入ると歯面に傷が付くので力は入れません。

下顎の犬歯の後ろは歯周ポケットが深く動揺していたので、抜歯を行いました。

状況によって、歯周病の進行を予防する目的でルートプレーニングや、歯肉の炎症性肉芽除去のキュレッタージも行います。

超音波スケーラーを行うと歯の表面には細かい傷が付きます。そのためスケーリング後は荒研磨剤を付けたポリッシングブラシを使い一次研磨を行います。

仕上げに、細かい粒子の研磨剤を使用して、ラバーカップで磨いていきます。

最後に洗浄と消毒をしてスケーリングは終了です。

 

 

当日の午後に退院となります。

良い状態を維持出来るように自宅でのデンタルケアを頑張ってもらいます。

 

②そもそもスケーリング処置とは?本当に必要なの?

スケーリングとは、歯の表面の歯石・歯垢を除去する事ですが、動物病院で行うスケーリング処置の正しい目的は『歯周病の予防、治療をする事』です。

◆歯周病とは?

歯周病は口の中の細菌が原因です。この細菌の塊が歯垢(プラーク)です。

歯垢1mgの中にはなんと、1億個の細菌がいると言われています。

1mgとは、塩10粒程度の重さなので、考えただけでゾッとしますね。

先述したように、歯周病の原因は口腔内の細菌です。スケーリング処置によって、この細菌の塊である歯垢や歯石を無くし歯周病の予防と治療をします。

◆スケーリングまでして歯周病を予防する理由は?

人では歯周病のリスクとして、狭心症・心筋梗塞、糖尿病、高血圧などが報告されています。

犬でも同様に歯周病があると心臓病・腎臓病・敗血症(敗血症とは全身症状を伴う感染症)などが言われています。また歯周病が進行すると顎の骨が溶けたり、重度では顎が骨折をしてしまう事もあります。

この症例は上顎の歯の大多数は抜け落ちていますが、残っている歯は重度の歯周病です。歯茎の退縮や炎症があります。写真からはわかりませんが、この症例は下の犬歯(黄緑矢印)より前の顎の骨は溶けて骨折をしていました。また犬歯(黄緑矢印)は下顎骨と骨性癒着(アンキローシス)を起こしていました。

おそらく随分前から痛かったのでしょう。この子は口を触らせる事を極端に嫌い、飼い主さんに口の中を見せてはくれない子でした。処置後、飼い主さんに口腔内の説明をさせて頂きました。口の中の状況にとても驚かれ、後悔されていました。

 

『年に1回のスケーリングで死亡リスクが18.3%低下する』という結果の論文も報告されています。

この結果から、年に1回麻酔をかけるリスクよりも、歯周病が悪化していく方が健康への影響が大きいと考えられます。

2歳以上の犬と猫では80%以上が歯周病と言われています。

その為、2歳以上では年に1回のスケーリング処置が勧められます。これは日本のみならず、アメリカやヨーロッパでも推奨されていて、歯を残したいのであれば、年1回のスケーリング処置を行う事が全世界的な基準と考えられています。

 

③無麻酔の歯石除去があるって話を聞いた事あるけど ???

結論から言うと無麻酔での歯石除去は推奨されていません。

無麻酔のメリットは麻酔をかけずに、安価で行える事です。

見た目は綺麗になりますが、歯の裏の処置や研磨等が出来ないために、歯石は処置前より付きやすい状況になってしまいます。

また肝心の歯周ポケットの処置ができないため、歯周病の治療にはなりません。

想像してみて下さい、私達も歯科医院に行った時に歯周ポケットの深さを調べてもらいます。その時に少しチクチクする事がありますよね。私達は理解しているので、納得できますが、犬や猫では無麻酔で歯周ポケットの深さを調べる事すら困難だと思います。

歯科医院で適切な処置に痛みを伴う場合は、歯医者さんは局所麻酔をして処置をしてくれます。

犬や猫で痛みを伴う処置を無麻酔で行う場合に、大人しくやらせてくれるのでしょうか?

無麻酔でのスケーリング処置は一般的に下記の写真の様なハンドスケーラーを使用して処置をしています。

この写真でもわかるように、ハンドスケーラーは先端がとても鋭い刃物なために、歯肉や粘膜を容易に傷をつける可能性があります。

無麻酔で行うスケーリング処置のトラブルとしては、『歯周病が悪化した、口腔周囲を触らせなくなった、口腔粘膜の損傷・出血、歯の破折、下顎骨の骨折』などの歯科領域だけの問題以外に、誤嚥性肺炎や、処置中・処置後の死亡、性格が攻撃的になったなどの報告がされています。

日本だけでなく、ヨーロッパや歯科の先進国であるアメリカでも、歯科処置をする場合は全身麻酔が必要と謳っています。

 

まとめ

正しいスケーリング処置とは、目で見える歯石を取り除くだけではありません。

目に見えない細菌が原因となる歯周病を予防・治療する事です。

当院のスケーリング処置は、超音波スケーラーを始め、整形外科手術でも使用するモーターや各種ハンドピース、また用途にあった様々な器具を使用します。

 

このような多種の器具を適切に使い分ける為にも、一本一本の歯をしっかりと診察して適切な処置を行う必要があります。

その為にはどうしても全身麻酔が必要になるのです。

歯周病治療は病院で行うスケーリング処置ですが、歯周病予防は自宅でのお手入れが大事になります。

スケーリング処置とホームケアで愛犬・愛猫の歯を健康な状態で維持していきたいですね。

 

 

 

 

 

 

獣医師 林 敬明