林動物病院

〒411-0816 静岡県三島市梅名97-5

# 27 : 犬の吻側下顎骨切除術 / 【口腔内の扁平上皮癌】

今回は口腔内の吻側にできた扁平上皮癌に対して、両側の吻側下顎骨切除術を行った症例です。

 

口腔内の腫瘍については以前に『#20 : 犬の下顎骨片側全切除術でも説明させて頂きました。

詳細はコチラからどうぞ。

 

今回の症例は9歳のシェルティーです。

下の歯の向きがおかしいという事で来院されました。

口腔内を診察してみると、左下の前臼歯の根本に隆起した腫瘤が確認されました。

1週間後に麻酔をかけて、病理検査の為の切除生検を行う予定でしたが、この診察からわずか2日間で腫瘤が急速に増大したとの事で再来院されました。2日前に比べ明らかに腫大していたため、その日の夜に急遽手術を行う事にしました。

 

両側の吻側下顎骨切除術

下顎の吻側に認められた腫瘤(黄矢)です。

口腔内にできる腫瘍の60%は悪性の『癌』です。

口腔内の悪性腫瘍は進行が早く局所浸潤が強い腫瘍が多いです。

今回の症例も進行が早いため、手術の切除ラインは腫瘤から軟部組織のサージカルマージンは1.5cm、骨のサージカルマージンは3cmを確保して切除しました。

 

切除した下顎の吻側部です。

病理検査の結果は、悪性の『扁平上皮癌』という診断でした。

マージンはクリアで、腫瘍組織は完全に切除されていました。

現在も再発は認められません。

術後の数日間は自力で採食が困難でしたが、今は自分から普通に食事を取ることが出来ています。

 

まとめ

犬の口腔内にできる腫瘍の約60%が悪性の『癌』です。

口腔内の悪性腫瘍は悪性黒色腫(メラノーマ)、扁平上皮癌、繊維肉腫がほとんどを占めています。この3つに共通しているのは、局所浸潤が強く悪性度が高いということです。

通常、口腔内腫瘍はまず病理組織検査を行い、病理検査の結果によって治療計画をたてますが、今回は腫瘍が急速に増大したため、早急な治療(手術)が必要だと考え、その日のうちに手術を実施しました。

術後の病理検査の結果と、術後1年以上経過しても再発はなく、とても元気な姿を見て早期の手術が功を奏した症例だと思います。

 

 

 

獣医師:林 敬明