林動物病院

〒411-0802 静岡県三島市東大場2-2-19

# 61 : 犬の胆嚢摘出術 / 【立て続けに4件の胆嚢摘出手術】

動物病院では、同じ病気の症例が続くことがあります。先月、当院では4件の犬の胆嚢摘出手術を行いました。それぞれの理由は胆嚢粘液嚢腫、胆石、そして総胆管(胆汁の通り道)の閉塞など、多岐にわたっていました。

胆嚢摘出手術 の4症例

1. 胆嚢粘液嚢腫の症例

胆嚢が粘液で満たされる病気で、手術中に肝臓や横隔膜と癒着(黄丸)が見られたため、剥がす作業が必要でした。

2. 基礎疾患にクッシング症候群と多発性肝嚢胞があった症例

この犬はクッシング症候群(ホルモンの病気)と肝臓に嚢胞(袋状の構造)が複数見られる状態でした。胆嚢以外にも注意が必要でしたが、無事に手術を終えることができました。

術前の肝臓エコー写真です。肝臓内に多数の嚢胞(黄矢印)が認められました。

3. 急速に胆石が増えた症例

定期検査で胆石の増加が確認され、早めの手術を行いました。摘出した胆嚢の中には、多量の胆石が詰まっていました。

4. 胆管が閉塞した症例

胆管が詰まってしまい、胆汁が正常に流れなくなったため、十二指腸を一部切開して通り道を確保する処置を行いました。

胆嚢管(青矢印)はチタンクリップを使用し、総胆管を開通させるため切開した十二指腸を縫合(白矢印)した写真です。

4匹とも手術後は順調に回復し、抜糸時は元気な姿で来院してくれました。


胆嚢摘出手術について

胆嚢摘出手術が必要になる理由はさまざまです。手術を行うたびに感じるのは、1つとして同じ胆嚢はないということです。
例えば、以下の点が症例ごとに異なります:

  • 胆嚢の位置や状態
  • 胆嚢内部の性質(石や粘液など)
  • 肝臓との癒着具合
  • 中肝静脈の位置
  • 総胆管の詰まりの程度

そのため、手術中には状況に応じた適切な方法を選択して進めています。胆嚢摘出時に行う総胆管を洗浄する方法もさまざまあり、症例ごとに最適な方法を用います。

手術のリスクについて

胆嚢摘出手術はリスクを伴う手術です。

胆嚢摘出手術の周術期の死亡率ですが、以前の報告では症状がある場合の死亡率は50%、無症状の場合は約20%とされていました。

最近では症状がある場合の死亡率が20%、無症状では5%との報告もあります。

当院の直近50件の手術成績では、48件で無事に手術を終えています。亡くなった2件は以下のような症例でした

  1. 胆嚢炎と膵炎を伴う症例
    手術前から体調が非常に悪く、膵炎も併発していました。無事に胆嚢は摘出しましたが、閉腹中に亡くなってしまいました。
  2. 胆嚢破裂による重度の腹膜炎の症例
    サードオピニオンとして来院された時にすでに胆嚢が破裂し、重度の腹膜炎を起こしていました。手術後しばらく安定していましたが、術後5日目に免疫介在性溶血性貧血を発症し、2度の輸血を行いましたが術後15日目に亡くなってしまいました。

無症状の症例では、亡くなった例はありません。ただし、胆嚢摘出手術は予想外の展開が起こりやすいため、毎回細心の注意を払っています。


飼い主の皆さまにとって、大切な家族であるペットの健康を守るために、手術の必要性やリスクを丁寧に説明し、納得いただいた上で治療を進めています。ご不明な点があれば、ご相談ください。

 

獣医師:林  敬明

 

この内容は2024年2月時点の情報です。