林動物病院

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# 7 : 猫の腸切除術 / 【高齢猫の下痢・嘔吐】消化器型リンパ腫

ネコちゃんは毛玉などを吐きやすい動物です。

特に普段から嘔吐をするネコちゃんを飼っていると、飼い猫が吐いても「またいつものように吐いてるのね」と思うことが多いでしょう。しかし、いつも以上に嘔吐の回数が増えてきた場合、深刻な病気にかかっている可能性があります。今回は、そんなネコちゃんの腸にできた腫瘍【癌】についてお話しします。

 

猫の腸の腫瘍

腫瘍には良性のものと悪性のものがあり、悪性のものは『癌』と呼ばれます。

猫の腸管に発生する悪性腫瘍の中で最も多いのはリンパ腫で、次いで腺癌が多く見られます。その他、肥満細胞腫、稀に平滑筋腫、平滑筋肉腫、GISTなどの可能性もあります。

症状としては、慢性的な下痢や嘔吐、食欲不振、便秘、元気消失、体重減少などが挙げられます。

今回の症例

18歳と高齢の避妊済み猫です。

3~4週間前から食欲不振が見られ、先週からは食後に嘔吐するようになり、来院されました。

一般身体検査で腹部を触診すると、5cm×3cmほどのしこりが触知されました。血液検査では重度の貧血が認められ、エコー検査で小腸に腫瘤が確認されました。(黄丸が縦断像での腫瘤部位、赤丸が横断像での腫瘤部位)

   

小腸の腫瘍を疑い開腹手術を行いました。

外科手術による小腸腫瘍切除術

開腹すると、小腸に約6×4×3cmの腫瘤(青丸)が認められました。腫瘤から6cmほど離れた小腸にも、表面が粗造な肥厚部(黄丸)が認められます。

腫瘤の一部は裂開し(黒丸)、腸の内容物が漏れ出ていました。また、腸間膜リンパ節(水色丸)も腫大していました。

腫瘤部位と粗造な腸管をまとめて切除し、腸管の断端を縫合(黒丸)しました。

切除した腸管です。

病理検査の結果、悪性腫瘍のリンパ腫でした。

腫瘍細胞は小~中細胞が主体で、有糸分裂像も稀との結果でしたが、腸管裂孔も起こしているため、低悪性度タイプの範疇は超えていると考えられます。しかし、18歳という年齢も考慮し、副作用の少ない、猫の高分化型消化器型リンパ腫の治療を行うことにしました。

経口の抗がん剤クロラムブシル(国内未発売)とステロイドの投与です。

治療後は嘔吐の回数も減り、食欲が回復しました。貧血の数値も改善し、調子が良さそうです。


とめ

猫ちゃんは毛玉などを吐きやすい動物ですが、今まで以上に嘔吐の回数が増えたり、嘔吐に伴って食欲不振、体重減少、下痢や便秘などの症状が見られる場合、病気が潜んでいる可能性があります。猫ちゃんの体調の変化に最初に気付くのは飼い主さんです。いつもの嘔吐と何か違うと感じたら、一度動物病院を受診してあげてください。

 

獣医師:林 敬明