# 1 : 犬の胆嚢摘出術 / 【破裂したら緊急事態!】犬の胆嚢粘液嚢腫
1回目の症例報告です。今回は当院で実施する機会が多い胆嚢摘出手術の話をさせて頂きます。
胆嚢粘液嚢腫とは
犬の胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)は、胆嚢の中にゼリー状の胆汁が溜まり、胆汁が正常に排出できない状態の事を言います。重症化すると、総胆管の閉塞や、胆嚢の破裂を起こします。胆汁はとても強い刺激物なので、胆嚢が破けると重度の腹膜炎を起こし死んでしまう、とても怖い病気です。
症状
初期にはあまり症状が出ないのがこの胆嚢粘液嚢腫の怖いところです。
進行すると、食欲低下や嘔吐が認められます。重篤な状態や胆嚢破裂では、ぐったりして動かない、黄疸、発熱などの症状が現れます。これはとても危険な状態です。すぐに治療しなくてはいけません。
原因
胆嚢粘液嚢腫の原因ははっきりとわかっていませんが、胆嚢壁からの粘液の過剰分泌、胆嚢の運動機能の低下、高脂血症、好発犬種(ミニチュア・シュナウザー、シェットランド・シープドッグ、シー・ズーなど)、内分泌疾患(甲状腺機能低下症、クッシング症候群、糖尿病)、細菌感染などで胆嚢粘液嚢腫になると言われています。また、当院では上記の好発犬種以外にも、ダックスフンド・ヨークシャーテリア・トイプードルで胆嚢摘出手術が多いです。
診断
エコー検査で胆嚢粘液嚢腫の診断をします。
エコー検査までの経緯は様々です。血液検査で異常な数値が出たのでエコー検査をする場合、動物ドックなどの健診で見つかる場合、また胆嚢破裂により緊急時に発見される場合などがあります。胆嚢が破裂している場合は1秒でも早く手術する必要があります。
胆嚢粘液嚢腫の胆嚢(赤丸)のエコー画像です。ドロドロなゼリー状物質が溜まっている状態です。教科書では ‟キウイフルーツの輪切り様” や ‟星状” とも表現されます。
正常な胆嚢(黄丸)の中身は液体の胆汁です。エコー検査では真っ黒に見えます。
治療
胆嚢粘液嚢腫の治療は内科治療と外科手術があります。
内科治療では利胆剤や抗菌薬の投与、そして食餌療法などがありますが、長期的に考えるとリスクはありますが内科療法より外科療法の方が期待できます。もちろん胆嚢摘出手術はリスクを伴います。しかし胆嚢が破裂した後の手術だと、例えしっかり手術を行っても40~60%が死亡するとも言われます。(大学の研究報告)
外科手術による胆嚢摘出
お腹を開けると、パンパンに内容物が入っている胆嚢(黄色の楕円)が見えます。
脆くなった胆嚢が破けないよう、慎重に肝臓から剥離していきます。
総胆管に閉塞がない事を確認して胆嚢管(白丸)を切除し、胆嚢を摘出しました。
摘出した胆嚢です。
切除した胆嚢を切ると、中からドロドロのゼリー状物質が出てきました。(正常は黄色い液体です)
今回の症例は手術の前から黄疸も強く出ていたので術後も注意が必要でした。術後に膵炎や播種性血管内凝固などの合併症を起こす可能があるため、手術が無事終わったからといって安心できません。術後の治療として、静脈内点滴を行いつつ、抗生剤・ビタミンK・抗血小板剤・抗炎症剤などの投与、鎮痛管理などの治療をしながら経過を診ていきます。この症例は術後の合併症も起こらず、血液検査の肝臓・黄疸・急性炎症の数値も下がり、食欲・元気も戻り無事に退院してくれました。
まとめ
犬の胆嚢粘液嚢腫は、初期では症状がみられない事が多いので、発見が遅れやすい病気です。重症化すると手術のリスクも上がるので、早期発見が大切です。
超音波検査で比較的発見しやすい病気です。「いつもと違う」と感じた時には、早めに来院して下さい。
その他の『胆嚢摘出手術』については下記の【肝臓・胆嚢・脾臓外科】をクリックすると閲覧可能です。
獣医師:林 敬明
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